まだまだ段ボール生活の続く原村の拠点から、今日はちょっと気づいたことを書いてみます。
長い引っ越しの片付けの末、ようやく昨日から「ホンモノの寝室」で眠ることができましたー。ルカ(愛犬)も夕飯のあとベッドの上でうたた寝。客室、リビング…と点々としてきた寝床がやっと落ち着きました。彼のその表情を見て、ワタシも初めてゆったりとした気分になれました。
焦りの正体は、「戻る場所」がなかったこと
引っ越し以来ずっと、一番大変な厨房や食堂での片付けが、なんだかうまく進みませんでした。
あれもこれも、こっちもあっちも。気分はいつも細切れで、一つのことに集中できない状態が続いていました。頭の中だけが忙しくて、手はあちこちをさまよっている感じ。
「荷物が多いから仕方ないかな」って思っているうちに「疲れているせいかな」いや「段取りが悪いのかな」などと考えていました。ここ最近では「仕事できないワタシ」って落ち込んだり。
でも、ホームがひとつ整った翌日(ホンモノの寝室で眠った次の日)、それが変わったんです。
気づいたら、冷静に道筋を考えている自分がいました。「あーしてからこれを、これをするためにはこういう前準備を」と、頭の中に段取りが生まれていました。
これには我ながらびっくり。
ホームと仕事場(厨房や食堂など)は同じ建物の中。どちらも自分の場でありスペースで、取り立てて区別しているつもりなんてありませんでした。それなのにこの違いはなぜ?
同じ空間なのに、なぜ変わったのか
神経系の話で言うと、これは「偶然の気分転換」ではありません。
ポリヴェーガル理論という考え方があります。ちょくちょく引用していますが簡単に紹介すると、アメリカの神経科学者スティーヴン・ポージェス博士が提唱した比較的新しい理論で、ざっくり言うと「私たちの神経系は、安全かどうかを常に感知していて、その状態によって脳と体の使い方が変わる」というものです。
この理論で特に重要なのが、腹側迷走神経系という回路です。
むずかしそうな名前ですが、要するに「安全だと感じているとき」に活性化する神経系のこと。ここがちゃんと働いているとき、私たちは他者とつながり、集中し、創造的に考えることができます。逆に、慢性的な疲れや「いつも焦っている感覚」があるときは、この回路が十分に動いていないサインとなります。
さらに、神経系が「安全モード」にあるとき(リラックスしている時)、前頭前野——段取りを組む力、優先順位をつける力、先を見通す力——がフルで動き始めます。逆に慢性的な緊張状態では、脳は「今この瞬間を乗り越えること」を最優先にするため、これらが後回しになる。体の設計としては合理的なのですが、日常生活ではそれが「集中できない」「段取りが悪い」という感覚として現れます。
「ホームが整う」ことは、神経系に「ここは安全だ」というシグナルを送ること。
それがそのまま、翌日の思考の変化につながっていたのだと思います。
「戻れる場所」が整うと、神経系は腹側迷走神経系を活性化させることができます。その瞬間から、前頭前野の実行機能——段取り・優先順位・見通し——が回復しはじめる。自分のスペースを整えるということは、ただ単に快適さのためではなく、神経系を「働ける状態」に戻すためのインフラといえるのではないでしょうか。疲れていることや焦ったりしてしまうのは、意志や能力の問題ではなく、神経系が緊張モードで走り続けているサインかもしれません。
「整える」は逃げではない。ニューロセプションへの投資
ポリヴェーガル理論には、ニューロセプションという概念があります。「神経系が無意識のうちに安全・危険を感知する仕組み」のことです。これは意識より速く、常に動いています。なんせ生命に関わることですから。
私たちは「考えてから安心する」のではなく、「神経系が安全を察知してから、はじめて考えられる」という順番になっているのです。
これは日常の中でも起きています。散らかった部屋、片付かないデスク、そんな「安心して戻れる場所」のない状態——それ自体がニューロセプションへのノイズになるのです。逆に、静かで整った場所は、神経系にとっての「安全のシグナル」として機能します。
原村に拠点を移してから、自然と人がバランスよく過ごす時間が神経系にどう影響するかを、日々体感しています。TREのワークでは、ソマティック——身体感覚を通じて神経系に直接アプローチすることができます。意識や言葉を介さずに、「今は安全だ」を体に覚えさせていく経験です。
一本歯下駄も、足裏と体軸への刺激で脳神経系にはたらきかけ、バランス感覚を通じて「今ここにいる」感覚を取り戻す手段です。
アプローチは違えど、めざす場所は同じ。
ニューロセプションに「ここは安全だよ」と伝えること。それがあらゆるワークの根っこにある、とワタシは思っています。
Q&A
Q:焦りや集中力のなさは、休めば改善しますか?
A:休息だけでは変わらないことが多いです。疲れを取っても「安全モード(腹側迷走神経系の活性化)」に切り替わらないと、焦りは続きます。ニューロセプションが安全を感知できる環境・状態を整えることがセットで必要です。
Q:ポリヴェーガル理論って、難しそうで自分には関係ない気がします
A:日常の言葉で言えば「緊張しているとき、人は頭も体もうまく使えない」というだけのことです。理論を知らなくても、「戻れる場所を作る」「身体を通じて安全を感じる」実践は今日からできます。
Q:TREや一本歯下駄は、どういう原理で神経系に効くのですか?
A:TREは筋肉の自然な振動を使って、身体に蓄積した慢性的な緊張を解放します。これはボトムアップ——身体から神経系へのアプローチです。また一本歯下駄は、不安定な足場への適応を通じて固有受容感覚を刺激し、脳幹レベルでの神経系の調整に働きかけます。どちらも「考えて安心する」のではなく、「体が安全を知る」プロセスです。
段ボールはまだまだ残っています。(笑)
でも、ホームがある。
それだけで、今日の仕事は昨日と変わっていました。
あなたのニューロセプションは、今、何を感じているでしょうか。


