はじめに:ヨガのレッスン後、ほめられた気分?
いつもクラスに参加してくださる生徒さんたちから、よくこんな声をいただきます。
「先生のレッスン、終わった後、とっても気持ちいいんです。でも、おうちに帰ってからも同じようにやりたいのに、全然覚えていなくて……。これって私が物覚え悪いからでしょうか?」
そんなふうに悩まれる方、とても多いんです。でもね、そんな時、私は必ずこうお伝えします。
「覚えていないなんて、すごくいいことですよー。」
そうお話しすると、みなさんキョトンとした表情になります。でも、この「覚えられない」っていう感覚、実はとっても素敵な意味を持っているんです。
「覚えられない」ことが教えてくれること
頭がリードしない時間
「覚えられない」ということは、ヨガレッスン中に頭をあまり使っていないという証拠です。日常では、ほとんどの場合、頭がリード役となり、身体をその決定に従わせています。あれこれ考え、分析し、判断し、それから身体を動かす——そんな流れが普通ですよね。
でも、記憶に残らないヨガの時間は違います。頭が指令を出す前に身体が動き、身体がそのままの状態を体験しているんです。つまり、余計な判断や決定を挟まず、身体そのものが主役になっているといえます。
「右脳で感じる」ってこういうことかも
脳機能学的には、右脳・左脳という二分法は正確とは言えないとわかってきています。でも、イメージしやすくするために、あえて言わせてくださいね。
記憶に残らないヨガの時間は、いわば「(右脳で)感じている」時間、もしくは「感性に働きかける」時間です。頭で記憶しようとせず、分析することなく、ただ「感じる」ことに身体を使う。これってスゴイことでしょう?
日常は頭ばかり酷使していませんか
頭の中のおしゃべりに気づいてみる
「いつもそんなに頭なんて使ってないんだけどなぁ」と思う方もいるかもしれません。でも、ちょっと自分の頭の中で繰り広げられている“独り言”に耳を傾けてみてください。
「今日の夕飯は何にしようかなぁ。昨日は焼き鮭だったし、今日は肉料理にしようかな。でも最近外食が多かったから、野菜中心の方がいいかしら。そういえば胃の調子が悪かったのはいつからだっけ?○○ちゃんとお茶した時からだから、もう1週間たつのかな。あの子の彼との問題は今どうなったのかな……。」
こんなふうに、頭の中って常に何か考え、比較し、判断しています。
たかが独り言、されど頭のお仕事
この「頭の中のおしゃべり」は、立派な頭の活動です。分析、判断、決定——それらはすべて頭が担う役割。頭を使っている間は、感じることができません。
何か心配事がある時、あれこれ頭で考え続けながら食事をすると、食べ物の味がぼんやりしませんか? 味わうという行為は「感じる」行為です。けれど頭が忙しく働いていると、味覚すらも十分に受け取れなくなってしまいます。
日常の多くの時間、私たちはこの「頭を使うモード」で過ごしています。感じる機会が減れば減るほど、感じる力は錆びついてしまいます。まるで長く使っていない道具が動かなくなるように。
身体の記憶が心を整える
身体の記憶は頭の記憶と違う
ヨガが身体にとって健やかさをもたらすだけでなく、心にとっても健全な影響を及ぼすのは、まさにこの「感じる力」を呼び戻すレッスンだからです。
冒頭の生徒さんへのお答えを、もう一度繰り返しますね。
「何も覚えようとしなくていいんですよ。レッスン中は、ただ感じて、味わってください。頭で何も覚えていなくても大丈夫。身体は『気持ちよかった』という感覚をしっかり記憶していますから。」
身体の記憶は、頭が意識的に覚えようとする記憶とは異なります。それは無意識の深い部分に自然と蓄積され、それはまるで神様の設計図にそって身体を導くようなもの。力まなくても、いつのまにか身体がその時必要な動きを探し出してくれるのです。
神様の設計図通りに動ける自分へ
身体がリードする「自分のヨガ」を見つけよう
ヨガクラスの後、おうちで何か動きたくなった時、あるいは何も考えていなくても、ふと「こんなふうに動くと気持ちいい」と思える瞬間があるのではないでしょうか。それはレッスンで習ったポーズかもしれないし、あなたの身体が即興で作り出す新しい動きかもしれません。
それでいいんです。ヨガのレッスンでやったことを頭で完全に覚えなくても、身体はちゃんと「心地よさ」の記憶を手放していません。感じることに集中し、味わいつづければ、その感覚があなたを自然に健やかな方向へ導いてくれでしょう。
だから「覚えられない」という状態を嘆く必要はありません。それは、あなたが感じる世界にどっぷり浸っている証だからです。感じるチカラを取り戻せた時、私たちは本来の自分らしさへ還っていきます。そして、いつか身体があなたをリードする「自分のヨガ」に出会えるのです。
最後に:個人レッスンでさらに深く味わう時間を
もし、あなたがもっと「身体の感覚」を育てたいと感じられたら、ぜひワタシの個人セッションを受けてみてください。グループレッスンではなかなか触れらることができない、あなた自身の身体が発する微細なサインに、一緒に耳を澄ませていきましょう。頭で覚えられないヨガ、ただ感じることに身を委ねるヨガを、一緒に深めてみませんか?
あなたの身体が、あなたにとって一番心地よいバランスへと自然に導かれていく……そんな体験をサポートできれば、とっても嬉しいです。