この記事は、瞑想を段階でとらえる「瞑想の地図」シリーズの第4回です。前回の第3回「身体が「知っている」——頭で手放せないものを、TREはどう解くのか」では、意識の届かない層に神経性の震えでアプローチするお話をしました。今回は、その記事の末尾でちらっと予告した「もう一つの不思議な道具」のお話です。
「運動神経ないと無理でしょ?!」
ippon blade®(一本歯下駄)を見ただけで、実際に体験される前の多くの方はこんな風におっしゃいます。
「それって歩けるの??」「特別な人しか無理でしょー」
そのたびにワタシは、少し笑って答えます。「本当に誰でも乗れますよー。運動神経とか全然関係ないんです」と。
もちろん、最初はちょっと乗れない。ふらつく。怖い。は実際にあると思います。でもそれはセンスがないからとか、運動神経が悪いからでも、体幹が弱いからでもない、とワタシは断言できます。ただ、今まで使われていなかった回路がまだ連動が十分にされてないだけです。
乗ると、カラダが勝手に動き始める
一本歯下駄は、文字通り歯が一本だけの下駄です。底に細い板が一枚だけついている。それだけの構造です。
これに乗ると、カラダは自動的に「倒れないように」と調整する動きを始めます。意識してどこかに力を入れているのではなく、倒れそうになる感覚に反応して、カラダが勝手に細かく修正しつづけるのです。なのでこの時は、力んで止まらないようにしてくださいとアドバイスします。力んで止まるということは、バランスで立つのではなく、一種の力技で立っているということになるからです。
この「勝手に修正する」仕組みを主に担っているのが、小脳です。
小脳は、脳の後ろ側にある比較的小さな部位ですが、バランス・姿勢・動きの自動調整を専門にしています。意識を通さずに、0.1秒以下の速さで全身を微調整してくれる、カラダの「名もなき現場監督」のような存在です。
なお、ワタシがこの下駄にどう出会って、なぜヨガ・TREに続く3つ目のワークになったのか——その物語と「遊び」の神経学については「カラダで遊ぶ、が神経系を整える」に書きました。今回はその続編として、「乗るだけで、なぜ変わるのか」の仕組みの話に絞ります。
小脳は、使われることで育つ
現代の暮らしでは、この小脳が存分に働く場面がずいぶん減っています。
平らな床、安定した椅子、舗装された道。これらはとても便利ですが、カラダにとっては「微調整しなくてもいい環境」でもあります。使われない回路は、少しずつ錆びていく。錆びついた道具が最初はうまく動かないのは、当たり前のことですよね。
ippon blade®に乗った最初の数秒は、多くの方がかなり不安定な感じを受けます。でもその不安定の最中に、小脳はもうとっくに動き始めています。転ばないように、重心を移動させて、足の裏で床を押して、骨盤を微調整して、、など。顕在意識には届かない深いところと速さで、山ほどの調整が起こされているのです。まさに小脳というコンピューターがバックで動いている状態です。
グラグラが、ふっと静まる瞬間
グラグラしていても、その中でグラグラの幅がだんだんと小さくなっていきます。実際に普通に座っている時でもじっくりと呼吸を観察していると、動いてないようで小さく動いているのを感知することができます。そうなんです。実際にワタシたちは止まっているようでも厳密には止まっていることなど一瞬たりともないのです。
それが理解できると、揺れているのに安定しているという状態を味わうことができるようになります。
ただ先ほど話した力技で止まろうとして体を固めてしまうと、ちょっとした揺らぎにかえって弱くなり、転倒の危険性も高まります。
そしてこれが面白いのは、「努力」ではなく、ただ在るみたいな感じでいると上手くいくんです。上手に乗ろうと力んでいる時はグラグラして、ふっと諦めたような、任せたような瞬間に、すっと止まれることがあります。
コントロールする手を引っ込めた分だけ、小脳が働ける。そんな感じなのかなと思います。
TREと一本歯下駄——同じ方向を向いた2つ
前回のTREの記事でお話ししたように、TREは「カラダに主導権を渡す」ワークです。
一本歯下駄も、同じ方向を向いています。バランスをとる動作のほとんどは、意識に届く前に起きています。頭で「右に傾いたから左に戻そう」と考えていては間に合わない。カラダに先に動いてもらうしかない。
TREが「深い緊張を振るい落とす」なら、一本歯下駄は「カラダのベースを整える」。ワタシの実感としては、TREで身体が緩んだあとに乗ると、バランスのとりやすさがぜんぜん違うことがあります。土台が緩んでいると、バランスをとりやすいのだと思います。またippon blade®に乗った後にTREをするのもおすすめです。TREのエクササイズの前半部分の働きを、ippon blade®に乗ることでできるからです。
乗るだけでいい
ippon blade®の良いところは、やり方がとてもシンプルなことです。
乗る。それだけです。
何分乗るとか、どこに意識を向けるとか、特別なポジションをとるとか、そういうことは後から学べばいい。最初はただ乗る。グラグラしていい。そのグラグラを少しずつ小さくしていく。止めようと思わない。その繰り返しの中で、小脳は勝手に仕事をしています。
「なんとかしなければ」という感覚が一番邪魔をしやすい道具かもしれません。ちょっとだけ「カラダに任せてみよう」という心持ちで乗ってみてほしいなと思います。
Q&A
Q1:運動が苦手でも乗れますか?
A:乗れます。むしろ「運動苦手」という方のほうが、乗れた時の感動は大きいかも。それに、運動が苦手でも、運動(体を動かす)は結構楽しいことだって思っていただけるツールだと思います。
Q2:どれくらい続ければ変化を感じますか?
A:初回でも「足裏が床に吸い付く感じ」「しっかり立てる」などを感じる方がいます。ただカラダの変化は個人差がとても大きいので、「何回で効果が出る」という数字は出しにくいです。
Q3:TREと一本歯下駄、どちらを先にやるといいですか?
A:決まりはありません。ただ、TREで身体を緩めてから乗ると、バランスの入り方が違うと感じる方が多いようです。ヒルナノーグのプログラムでは、両方を同じ滞在の中で体験できるように設計しています。
Q4:普通の一本歯下駄でも同じですか?
A:この記事の体感は、神経系への働きかけを意図して設計されたippon blade®シリーズの話です。古武術訓練用やお祭り用の一本歯下駄とは設計思想が異なるため、同じ体験が得られるとは限りません。
原村で、乗ってみませんか
「瞑想の地図」シリーズでここまでお話ししてきたのは、意識(氣づき)→意識を保った休息(ヨガニドラー)→意識を脇に置く(TRE)→カラダのベースを整える(一本歯下駄)という順番です。どれも、頭が頑張る方向ではなく、少しずつカラダに戻っていく方向を向いています。この4つがどうつながっているかは「神経系を整えるとは何か——4つの道の全体マップ」にまとめました。
この夏、長野県原村に開くリトリート「ヒルナノーグ」では、この4つを一つの滞在の中で体験していただけるプログラムを準備しています。八ヶ岳の高原の空気の中で、一本歯下駄に乗ってみたい方はぜひ。
先行案内は公式LINEからお届けします。「一本歯下駄って何から始めればいい?」という質問だけでも、氣軽にメッセージくださいね。



