【30代からの心の整え方】「思考」に囚われず「意識」を育む。感じるヨガとソマティックが導く三層構造の私

「思考」と「意識」の違いを、“感じるヨガ”とソマティックの視点から紐解きます。
体・心・意識の三層構造を理解することで、自分という存在をより深く感じるためのヨガ哲学エッセイ。

はじめに:「感じる」って、どこで感じているの?

毎日、仕事や家事、人間関係に追われる中で、ふと「これでいいのかな?」と立ち止まることはありませんか?頭で考えるばかりで、心が疲れてしまっている……そんな風に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

2017年に出版した拙著『感じるヨガで、』(amazonアフィリエイトリンク)は、「ポーズの完成にこだわらず、感じることこそが本来の自分に還るヨガの一歩」という思いを込めて書きました。それから数年が経ち、近年では「ソマティック(Somatic)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

「ソマティック」とは、ギリシャ語の soma(生きた身体)に由来し、単なる“体”ではなく「生きている体験そのもの」を意味します。この考え方は、私がずっと伝えてきた「在り方としてのヨガ」、すなわち「感じるヨガ」と根底で深くつながっています。

つまり、“感じるヨガ”とは、ソマティックの実践そのものと言えるのではないかな?今日はそんな視点から、「思考」と「意識」のあいだにある“感じる”という、大切な領域を一緒に見つめてみたいと思います。

目次

「思考」―「感じる」―「意識」の関連性

「思考」をめぐる混乱 ── think と feel のあいだで、私たちは何を失っているのか

日本語の「思考」という言葉を聞くと、どんなイメージを持ちますか?
「論理的に考えること」や「意識を集中すること」を指すように感じる方が多いかもしれません。

しかし、「思考」という漢字をみてみると「思う(feel)」「考える(think)」の二つの要素を合わせ持っています。つまり、日本語の「思考」にはすでに「思う」という、いわば“感情”が含まれているのです。

一方、英語ではこの二つは明確に分かれています。

  • feel 感情的・身体的に感じる
  • think: 論理的・分析的に考える

私たち日本人にとって、この「思う」と「考える」の違いが、「思考」という言葉の曖昧さを生み、私たちを混乱させることがあります。

たとえば、ストレスで頭がモヤモヤして「思考を止めましょう」と言われたとき、ある人は「考えごと」を止めようと頑張りますが、またある人は「感じること」まで止めてしまうかもしれません。けれど、“感じる”ことを止めてしまうと、私たちは“いまここ”から切り離されてしまいます。すると、自分の体の声や心の動きに気づけなくなり、漠然とした不安や焦燥感に囚われやすくなる。

なぜなら、“感じること”こそが、体と意識をつなぎ、本当の自分を取り戻す入り口だからです。

「感じるヨガ」とは──体を通して「意識」に触れる道

では、具体的に「感じるヨガ」とはどういうものなのでしょうか?

「感じるヨガ」は、ポーズの完成度を追い求めるのではなく、失われがちな「感じる力」を取り戻すことを目的にしています。感じる、とは、身体が発している微細な信号に、そっと気づきの光を向けること(意識で照らすこと)。

たとえば、このような身体からの信号を「感じる」ことができるでしょう。

  • 呼吸の深さ
  • 皮膚の温度
  • 胸のひらき具合
  • 足裏の重心の移動

こうした一つひとつの感覚に意識を向けることで、「自分」という存在が“いま”“どう在るのか”を知ることができます。そのときに生まれる“気づいている感覚”こそが、ヨガでいう「意識(awareness)」の入り口であり、ソマティックが語る「自己調整(self-regulation)」の始まりでもあります。

この感覚は、頭で考えようとすると遠ざかってしまいます。

ただ、シンプルに体を通じて「いま、ここ」にある自分を感じる。それだけで、心の中に静かなスペースが生まれ、私たちは深い安心感に包まれていきます。

ソマティックという言葉が示すこと:あなたの「感じる力」が、心と体を癒す鍵

ソマティックとは、soma=「生きた身体」から来た言葉。

そこには、単なる“身体的”という意味を超えた深さがあります。近年、ポリヴェーガル理論など、神経系の理解が進むなかで、「感じることで整う」というアプローチが世界中で注目されるようになりました。

それは、頭で論理的に理解するのではなく、体を通した“気づき”による知(embodied knowledge)によるもの。つまり、体全体で納得するような深い理解です。

思い返してみれば、「感じるヨガ」はすでに、この“ソマティックなヨガ”として存在していたのです。私たちの体が本来持っている「感じる力」こそが、心身のバランスを整え、ストレスから解放されるための鍵だったのです。

カオン式「体・心・意識」三層モデル:私という存在の地図

ヨガやソマティックの実践を通して見えてくるのは、私たちの存在が三層になっているということです。これを私なりのモデルとしてご紹介します。(本当はもっと細分化できますが、それはまた別の機会に)

三層の概要とそれぞれの関連性

体(からだ)

体験そのもの / body / soma(sensing)

感覚器官を通して世界と触れている層。呼吸、体の動き、皮膚感覚など、ここに「生命の声」があります。

感じる

心(思考)

思う・感じる・考える / mind(thinking + feeling)

「思う」と「感じる」が交わる層。思考、感情、記憶、イメージが流れている場所です。ここが私たちの日常の体験の中心にあります。

気づく

意識(観照意識)

見ている・気づいている / consciousness・awareness

心と体を見つめる存在。判断せず、ただ“気づいている”領域です。ここが本来の「私」が還る場所です。

「思考を止める」ではなく、「感じて観<み>る」:穏やかな心の取り戻し方

先ほど、上でも述べましたが、ストレスで頭がモヤモヤして「思考を止めましょう」と言われるときがあります。

しかし、「思考を止めよう」とすると、かえって頭の中は騒がしくなります。思考が思考を抑えこもうとするということは、それはまるで内側で戦っているようなもの。この戦いは、私たちをさらに疲れさせてしまいます。

けれど、「思考を観<み>る」とき、意識が思考をただ静かに見つめることができます。その瞬間、思考と意識のあいだに心地よい「余白」が生まれ、思考は波が穏やかになるように、静かに落ち着き始めるのです。

体を感じること、呼吸を感じること、そのどれもが、この「観照意識(ただ見つめる意識)」を育んでくれます。ヨガもソマティックも、この「感じて観<み>る」という穏やかな実践を通じて、心身の統合(サマーディ)へと導いてくれるのです。

三層モデルを活用する小さな実践

今日からできる小さな実践として、まずは仰向けになり、呼吸でお腹がゆっくり上下するのを感じてみましょう。ただ、その感覚に意識を向けるだけ。それだけで、あなたは「感じる」という本来の自分を取り戻す一歩を踏み出せます。

少し慣れてきたら、上でも挙げた「足裏の重心の移動」を歩くときに感じてみましょう。一歩ずつ、感覚を自分のものになっていくのが味わえます。

用語のまとめ(カオン式の語彙)

日本語や英語を取り混ぜて説明してきましたので、ここで表現を一覧にまとめておきましょう。

統一語英語対応主要な働きソマティック的解釈
からだbody感覚・呼吸・動き感じる知
embodied awareness
思考mind(thought + feeling)感情・意味づけ・記憶感情の流動性・自己調整
意識観照意識awareness / consciousness見ている・気づいている安全・つながり・共感の空間

結び:「感じる」は“思考”と“意識”をつなぐ、あなた自身の内なる橋

ヨガや瞑想の世界において、思考は敵のように扱われてしまうことがあります。しかし、思考は敵ではありません。ただの波です。その波の下には、揺るがない体という大地があり、その上には、広大な意識という空が広がっています。

体が感じて、心が動き、意識が見ている。この三つが調和するとき、私たちは“在る”という深い平安に戻っていくのです。それは、どんな状況でも揺るがない、あなた自身の内なる平和の泉に気づくこと。

「感じるヨガ」と「ソマティック」は、この三層をもう一度結び直すための道。それは、“考えるヨガ”から“感じるヨガ”へ、そして“感じるヨガ”から“意識としてのヨガ”へ──。在り方そのものへと続いていく、静かで深い旅路です。

ぜひ、このブログをきっかけに、あなた自身の「感じる力」を再発見し、より穏やかで豊かな毎日を歩む一歩を踏み出していただけたら幸いです。

超初心者も安心 寝たままで優しく整う瞑想(仰臥瞑想)

【著者プロフィール】
家崎カオン
ヨガ指導者養成/TREアドバンスプロバイダー。2017年出版の書籍『感じるヨガで、』は、「体の声を聞く」ヨガとして静かな反響を呼ぶ。現在は、オンライン・オフラインでポーズの完成にこだわらない「感じるヨガ」やTRE(トラウマ緊張開放エクササイズ)のワークショップを開催し、30代〜50代を中心に「自分を整えたい」と願う人々をサポートしている。

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